夭折の天才数学者・ガロアの生涯

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)

ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)

著者の前著には感心させられていたので、期待した。著者は数学の専門家なので、いわゆる「ガロア理論」が解説してあるのかと思って読んでみたのだが、意外にも評伝だった。最初の方は、「ガロアの不運はしかたがない、凡人が天才を理解しなくても責任はない」といったもので、英雄の活躍を期待していたのは裏切られたが、まあもちろん著者が正しいわけである。(でも、それにしたってポアソンは酷いな。弁解の余地なしだろう。)
 しかし、そればかりではなかったのであり、第六章の、ガロアの「幻の著作の驚くべき序文」の全訳と解説には洵に興奮した。もちろん解説なしには一歩も進めなかったが、著者に拠れば、ガロアの射程は「代数のガロア理論」ばかりか、代数方程式の理論に留まらない、現代数学の「構造主義的」視点の一端を、完全につかんでいた、というのである。著者のいう「難しさ(=曖昧さ)を対称性のシステムの構造で理解する」というガロア理論の中核は、素人である自分は正確には理解していないが、薄ぼんやりとはわかるし、じつに面白い。こういうことが、もう少し深く理解できるとさらに楽しいだろうし、挑戦したくもなろうというものだ。まったく、数学の面白さには、切というものがないのである。
 著者の中公新書の本は、これで三冊目で、どれもハード・コアにして、いつも感服させられる出来だ。著者は偶々自分と同じ歳のようであり、同世代がこういういい本を書いてくれるのは嬉しい。ますますの御活躍を期待しよう。