高瀬正仁の『高木貞治』を読む
- 作者: 高瀬正仁
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/12/18
- メディア: 新書
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高木は教科書も少なからず執筆しているが、殆どすべての本が今でも読むに堪えるのは驚きだ。自分も何冊か持っているが、とりわけ有名なのが『解析概論』だ。これは初版がなんと昭和十三年で、七十年以上も前の本であるのに、今でも大学初年度向きとして使用できるほどである。こんな例は、たぶん西洋の数学書でも少ないことだろう。これで解析学を学んだ日本人が、いったいどれくらい居ることだろう。岩波文庫にも入っている『近世数学史談』も、楽しい名著として読み継がれている。とりわけ、冒頭のガウスのエピソード(十九歳のガウスが朝起きた刹那、正十七角形の作図法を思いついて、数学者になろうと決心した話)は有名だ。
本書に通奏低音のように流れていると感じられるのは、高木は激しい感情に捉われることはまずなかったが、心の底に、ユーモアと深い感情を秘めていたことである。ユーモアは、高木の著書を読んでいると時々気づかせられるが、本書に拠ると高木は、老いたヒルベルトと三十二年ぶりに会い、精神的に衰えたヒルベルトがいまだ数学に取り憑かれているのを見て、「生きながらの餓鬼道ではありませんか」と嘆息し、暗涙を禁ずることができなかったという。著者ではないが、学の深淵の怖しさというほかなく、胸をつかれたけれども、こういうところに注目する著者もさすがである。現代の数学者であり、筆も立ち、数学の古典の翻訳などもなされている著者のような人は少なく、さらなる御活躍を期待したい。
- 作者: 高木貞治
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/09/16
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- 作者: 高木貞治
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/08/18
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- 作者: 高瀬正仁
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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