網野善彦と概念

米・百姓・天皇 日本史の虚像のゆくえ (ちくま学芸文庫)

米・百姓・天皇 日本史の虚像のゆくえ (ちくま学芸文庫)

網野は概念を正そうとした学者だと云えるかもしれない。本書での印象はそうである。例えば、従来の歴史研究では、畜産も「農業」の一部として含まれてしまっていた。それが、必然的に、研究における畜産の軽視につながったということである。また、「農業」が重視されるあまり、「海民」の存在は取るに足らないものとして扱われていた。結局、認識を変えるには概念を変えざるを得ない。網野がこだわる、「日本」「天皇」といった言葉もそうである。「日本」という言葉ができる前は「日本人」などいなかったのであり、また、「日本人」を作り出すために、イデオロギー的に「日本」という語が導入されたわけである。そこのところに盲目的になってはいけない、ということだ。
 本書では石井が伴走者であり、批判者でもあって、網野の説を批判的に捉えることができるようになっている。それにしても、網野の死後、日本史家らの網野へのルサンチマンの噴出を感じないでもない。それは網野が、専門家以外に読者を多くもっていたせいが大きいと思う。これは、日本の学問のすべての分野でいえることだと思われる。