興味深い日露戦争史

日露戦争史 - 20世紀最初の大国間戦争 (中公新書)

日露戦争史 - 20世紀最初の大国間戦争 (中公新書)

NHKの「坂の上の雲」への興味から、かなり丁寧に読んでみた。がっちりとした歴史書である。知らないこと、勘違いしていたことも結構あって、とても面白かった。
 さて、当時の国力は、総体的に考えてロシアが日本を上まわっていたわけだが、どうして戦争は日本が勝ったのか。本書全体の印象では、その原因は、ロシアが抱いた日本のイメージが、はっきりしていなかったことにあったように思える。つまりロシアは、開戦の前は日本を過小評価し、開戦後は概ね過大評価した。そのため、ロシア側が軍事的好機を逸したことが、頻繁にあった。また、軍事面・外交面で、日本は概ね妥当な手を打っているが*1、ロシアの方はミスが多く、国内対策も失敗している*2。そのあたりが積み重なり、最終的に日本が勝利したようである。
 本書に拠れば、日露戦争は、従来の「植民地戦争」の延長線上で考えるべきではなく、はっきりとした「大国と大国の」戦争であった。また、機関銃の大量使用や塹壕戦、さらには事実上の「総力戦」であったことも考えると、第一次世界大戦の先触れであったともいえるだろう。よくいわれることだが、非西洋の国家が西洋の(進んだ)国家と対等に戦いうることを示した点でも、もちろん重要である。日本にとっても世界史にとっても、意義の大きな戦争だった。ここから日本は、第二次世界大戦での敗北に、一気に突き進んでいくわけだが。

*1:開戦時日本は、戦争を大局的に見て、どういうふうに実行していくかという、はっきりした見通しはなかった。当座の目標を立てて、場当り的に遂行していたのである。それにも拘らず、打った手はおおよそ正しかった。ただ、ロシアのバルト艦隊と太平洋艦隊を合流させないという意図は、終始忘れられることはなかった。例えば、「二〇三高地」の多くの犠牲を支払った奪取は、旅順港のロシア太平洋艦隊への砲撃を狙ったもので、まさしくその意図に沿っていたのである。

*2:ロシアでは戦争の遂行に当り、ツァーリと政治家と軍部がそれぞれ異なったヴィジョンを持っていて、一本化された意図が存在しなかった。