大拙と幾多郎

大拙と幾多郎 (岩波現代文庫)

大拙と幾多郎 (岩波現代文庫)

鈴木大拙西田幾多郎の生涯を、二人の友情を核として描いた評伝である。大拙の仏教や幾多郎の哲学に細かく切り込んではいないが、この偉大な二人をまずひとりひとりの人間として取り扱い、それが却ってよかったように思われる。自分は、とりわけ西田の生涯については知るところが少なかったので、これほどの実生活の苦労の中からあの西田哲学が生まれたことに関しては、感慨に耽らざるを得なかった。また文章が誇張のない、洵に読みやすい坦々としたものなのもよかった。西田の死と、それに対する大拙の号泣を静かに描いたところなど、目頭が熱くならずにはいられなかった。
 大拙は、太平洋戦争の敗北は「日本的霊性」の不足に他ならなかったと言っていたそうである。日本の宗教の敗戦なのだ、と。これは戦時中唱えられた「大和魂」などとはまったく違うものである。今やさらに、その「日本的霊性」は、既に一般人にも、それ以上に言論にも、殆ど払底している現実がある。実際、本書を読んでいて、自分も含めた、現代の幼稚な日本に思いを馳せずにはいられなかった。現代のどこに「大悲」があるか。まったく恐ろしいことになっているのだ。