- 作者: 井筒俊彦
- 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
- 発売日: 2010/12/01
- メディア: 単行本
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第四章で、プロティノスを論じているのも面白い。これも、エマナティオの解釈など、偶像破壊的である。井筒によれば、エマナティオは必ずしも「一者」からリニアになされるのではない。そのように見えるのは、記述の上で正確に言い表しようがないからである。だから、「叡智」と「質料」は、「一者」から等距離にあるとも云えるのである、と。それにしても、これは個人的な感想だが、プロティノスの「一者」は、なんとも真言密教の「大日如来」に似ている。またこれを転じて、物理学の場の量子論の「真空」概念とも比較できないか。いや、場の量子論の「真空」は、おそらく「一者」そのものではないだろうが、つねに粒子の生成消滅で沸き立っており、充実した「無」とも云えるだろう。もちろん、本来はもっと数学的に考えねばならないのではあるが。
本書は、井筒俊彦が三十代なかばで書いたものである。二十代での『イスラーム思想史』も凄かったが、なんという天才であろうか。その語学力といい、独創性といい、世界的な高峰というしかない。もっと広く読まれることを冀う思想家である。