「進化の中立説」から見たダーウィン

ダーウィン入門 現代進化学への展望 (ちくま新書)

ダーウィン入門 現代進化学への展望 (ちくま新書)

「進化の中立説(中立進化論)」(Wikipedia)の立場から照射した、ダーウィン論である。著者は研究歴の初めから「進化の中立説」の立場で研究してきた世代であり、それは本書の内容を強く規定し、この説の「勝利」は明らかなものとして論を進めているが、一般的には、この説を受け入れておらない研究者もまだ少なくないのかも知れない。いずれにせよ、学の詳しい動向に自分は無知なのでなんとも言えないが、学生時代にこの説を知ったときから、画期的であるとは思っていた。実際、啓蒙書レヴェルではこれまで、ネオ・ダーウィニズムの「自然淘汰」説の納得いく証明は一切読んだことがなかったので、そう思われたのである。おそらく「進化の中立説」は、生物学における最大級のパラダイム・シフトのひとつであろうと自分は考える。
 であるとすれば、この「進化の中立説」があまり知られていないのは、一体なぜなのか。それはおそらく、「自然淘汰」説はとてもイメージしやすいのに対して、「進化の中立説」の正確な理解には数学が不可欠であり、その点でハードルが高いから、というのが理由のひとつだと思う。また、提唱者の木村資生が日本人だから、というのはあまり考えたくはないが、それがないとも云えないだろう。
 面白いことに、「進化の中立説」を採ると、意外にも、例外的な現象ではあるが、「自然淘汰」によると考えられる現象もはっきりしてきたらしく、これも学問の雰囲気としていい感じである。
 ただ、「進化の中立説」の立場からダーウィンを見るというのは、これはどうなのだろう。それほど強い必然性は感じない。ダーウィンの学説自体と、これまで主流だったネオ・ダーウィニズムも、かなり違う。また本書は、「進化の中立説」の啓蒙書としても中途半端である。これに話題を絞った新書などがもっとあってもよいだろう。
 なお「中立説」についての本は、このブログでも以前に取り上げたことがあったと思う。太田朋子のブルーバックスか何か。「中立説」も今ではいろいろ発展しているようなので、専門書以外にわかりやすく詳しい本があるといいのではないか。