「紛争屋」から見た、国際紛争と日本の外交

紛争屋の外交論 ニッポンの出口戦略 (NHK出版新書)

紛争屋の外交論 ニッポンの出口戦略 (NHK出版新書)

日本人の必読書だろう。国際紛争の実情と日本の外交について、これほど考えさせられる本はなかなか無い。テロや戦争ということに関して、こうしたら必ず上手くいくなどという簡単な処方箋はあり得ないことが判る。例えば「平和」と「人権」は必ずしも両立しないということがあり、実例として、著者が現実に関わった、シェラレオネの武装解除の話が出てくる。内戦で何十万人の大量虐殺を命令した指導者が、裁かれるどころか、紛争後の統一政権で副大統領になったりするというのだ。これなど簡単に白黒つけられる問題ではなく、考え抜いた末に、正しいかどうか悩みつつも落とし所は必要ということで、決断されている。これに限らず、国際紛争の解決というのはひとつの判断基準で決められるものでは到底なく、よくても最善のグレー(灰色)になるしかない場合が多いのだ。日本のマスコミ、引いては日本人の多くに顕著なのは、外交に関して、単眼的な情緒的反応しかできない点である。外交的な利害損得の計算ができない。自分を省みても、残念ながらそういうことが多い。我々の目を覚ませしむるには、著者のように現場感覚と経験をつんだ専門家が啓蒙することが不可欠であり、特にほとんど末期的なマスコミと、常に何についても何か意見を言ってみたい「知識人」をなんとかしないと、こののちが怖ろしい。自衛隊憲法第九条を最大限利用するという発想が、何とか多くの日本人に共有されることが切望される。憲法第九条をもち、人を殺したことのない自衛隊がある日本は、東南アジアから中東にかけての「紛争の弧」の国々において、意外に好意を持たれているということ、これは我々の財産なのだということを、強調しておきたい。