- 作者: 小林敏明
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/04/16
- メディア: 文庫
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そして、これは言っておかねばなるまいが、本書で著者は、西田における仏教の存在を、意図的に小さく見積もっている。これは、西田直系の影響もあって、西田を仏教の視点から解釈しすぎることへの警鐘を鳴らしているわけである。これはかなり説得的だった。(もちろん著者は、西田哲学に仏教の影響がないなどと云っているのではない。)他方で、フロイトやラカンの理論をいくらか道具に使っているのは、西田の解釈にはめずらしいように感じられる。これも(自分が云うのは不遜だが)決して付け焼刃などではないし、本書のライト・モチーフが「父」ということであれば、当然のことでもあろう。
繰り返すが本書は、著者の他の著作も読んでみたいような気にさせる、本当に面白い本だ。それにしても、こんなにシブい本が文庫で出るなら、西田の本格的なアンソロジーが文庫にあってもよいと思う。自分のような気まぐれな読者には全集はさすがに購入を迷うところだし、西田に興味をもつ一般読者だって、結構いるのではと推測してしまうのだが。文庫の論文集として、岩波文庫のアンソロジー三巻だけというのは、日本の代表的な哲学者のそれとして、いかにもさみしい話ではないだろうか。
※追記 西田哲学に仏教乃至東洋思想を考えないというのは、やはり問題かも知れない。いずれにせよ、西田を読み直す必要を感じる。(4/26)