- 作者: 近藤洋逸
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/10/08
- メディア: 文庫
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このように、本書の数学者に対する評価は、思想史的ともいえる観点を濃厚に漂わせているところがユニークだ。(といっても、数学的な記述がしっかりなされた上でのことである。)特筆すべきは、非ユークリッド幾何学の成立に関するカント哲学の影響を、詳細に考察していることである。例えばガウスも、カントをしっかり読み込んでいたということであり、時間と空間を認識の形式とするカント哲学は、非ユークリッド幾何学への一種の触媒となったらしい。
リーマンは、接続の幾何学につながる、リーマン幾何学の基礎を打ち立てたわけであるが、物理学者でもあった(その論文の1/3が物理、数理物理の分野であった)リーマンが、既に重力や光の理論の「近接場」化に努力していたというのは、驚きだった。それはもちろん成功しなかったが、これはまだマクスウェル(もちろんアインシュタイン)以前のことである。マクスウェルになりそこねたのは、著者に言わせれば、近くにファラデーがいなかったからだろう、ということである。
なお、ラッセルによるリーマン批判に対する論駁で、リーマンが「空間の構造が物質の力によって決定される」という科学思想をもっていたということを、著者は論拠としているが、そこはよくわからなかった。リーマンの物理・数学思想はアインシュタインの発想とは違っている。ラッセルは、計量が変わると物差しも変ってしまうということで、リーマン幾何学を批判しているが、一点だけのリーマン幾何学というのは無意味であり、近傍は関係的である。そして、実際に構成される計量は、点の近傍がユークリッド空間(これが物差し)であることに負っている。