震災復興の名目で利権をつくるということ

震災復興 欺瞞の構図 (新潮新書)

震災復興 欺瞞の構図 (新潮新書)

大震災の復興費用として、政府は19から23兆円の予算が必要だといい、10.5兆円の増税が必要だという。著者は、被災した人を直接助ければ4兆円、個人資産を政府の費用ですべて復旧したとしても、6兆円で済み、増税など必要ないという。どちらが正しいか。それは本書を読んで判断して頂きたいが、自分は圧倒的に著者が正しいと考える。では、仮にそうだとして、どうしてそのようなことになるのか。まず、政府の被害額の見積りが大きすぎる。そして、それだけではなく、予算の中に無駄なもの、復興と直接関係のないものがたくさん含まれているからだ。無駄なお金は、利権を生む。これまで散々聞かされてきた話で、殆どうんざりさせられる。
 一例を挙げれば、仮設住宅の建設は、一戸につき500万円かかる。そしてそれには2年しか住めないから、月割にすると、一月20万円である。これなら、例えば、月に仮に15万円を被災者に渡して、部屋を借りてもらった方がよっぽどマシなのだ。それよりももっといいのは、500万円をそのまま、住宅建設の頭金などに使ってもらうとよい。実際、2000年の鳥取県西部地震では、全半壊の住宅が2888棟になったが、片山善博鳥取県知事が(国の反対を押し切って)住宅建設に300万円の支援金を支給したところ、仮設住宅の建設は20戸で済んだという(p.116-7)。個人資産を公が支援すべきでないという考え方もあり、それはそれで一理あるが、現実にはこの事例の有効性がわかったので、さらに法制化(被災者生活再建支援法の2007年の改正)もされた。
 正直言って、日本のダメなところばかりがよくわかる本でもある。著者が「問題を警告し、課題を設定し、方策を議論し、対策を決定し、それを実行するべき日本の統治機構に根本的な欠陥があり、この事実を認識さえできないことに慄然とするばかりだ」(p.185)と述べているとおりである。我々は、もっと論理的に考える力を身につけねばならない、って、しかし敢てこう云わなくてはならないのだろうか。そうそう、阪神・淡路大震災の復興で「立派に再建」された長田区は、ゴーストタウンになっているそうだ。そして、神戸空港の建設って、いったい何なのだったのか。
 自分は著者の本を読むのは初めてなのだが、洵に骨太の議論をやっておられる。経済学の切れ味と有効性を、本書で実感して頂きたい。