「ふつうの」人の「ふつうの」人生を描く小説とは
- 作者: 橋本治
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2001/02
- メディア: 文庫
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小説に対する判断としては、脇道に逸れてしまった。文庫末尾の自著解題で、著者は本書を「舞台に上がりたがるシロートのための演技訓練みたいなもの」と云っている。まあいくら「美しい断片」であろうと、上から目線には違いなく、これは明らかに「啓蒙」の態度だと言えよう。「物語」に塗れた我々の自意識を、解体してやろうという試みである。だから、「ふつうの」人の人生は、いかにも「ドラマ」にあるようにドラマティックにではなく、まことにフツーに描かれねばならなかった。
などと書くと、自分は本書を評価していないように思われてしまうのは必定だろうが、そうではない。本短篇集は、小説としてまことに面白かった。作中ではどれも大したことは起きないのだが、坦々としつつも心理描写は精緻であり、先を読ませる筆の力がある。類を見ない達成とすら云えると思うほどだ。