デフレは金持ちにはおいしすぎるのだ

おもしろくて一気に読み終えた。本書は「金持ちの、金持ちによる、金持ちのためのための経済学だ」とある。庶民は出入り禁止。今のデフレ下の日本というのは、金持ちには都合がよすぎて、笑いが止まらないくらいなのである。だいたい、デフレというのはお金の価値が増えるという現象であるから、それだけで金持ちには有利である。だから、リフレ派がいくら頑張っても、既得権益はデフレを望むために、デフレが解消されないのは当り前なのだ。デフレを解消するためには、デフレで本当は搾取されている貧乏人が立ち上がらなければならないのだが、その貧乏人たちは真実を知らないし、自分たちが世の中を変えられるとはつゆ思っていない。金持ちにとって怖いのは累進課税で、ありがたいのは消費税だが、いまの日本はといえば、累進課税法人税は軽減され、逆進性の強い消費税が増税されようとしている。まったく金持ちにはこたえられない、事態の展開である。
 本書はリフレ派親和性であるが、一般的なリフレ派の見解と異なってみえるような話もある。ひとつはTPPについてで、リフレ派は基本的にTPP賛成のようだが、本書は明確にTPP反対の姿勢を打ち出している。自分は中野剛志の胡散臭さもあって、なんとなくTPPはあってもよいのかなと思っていたが、本書のTPPで日本の農業壊滅というシナリオは、かなりの説得力を感じた。TPPにより日本の農業は、既に壊滅している林業と同じ道を歩む、というのである。
 それからもうひとつは、日本の国債は日本人が買っているから大丈夫という意見で、リフレ派はこれを誤りだとするが、本書はこれを支持し、自分には説得的だった。この問題は、リフレ派がきちんと論拠を示しているのを読んだことがないからである。
 本書で著者が断言しているのは、あと数年で震災恐慌が起こり、これは金持ちにとって千載一遇のチャンスとなることである。なんとしても、金持ちはこれを起こさねばならぬ。そして、最低になった株や土地を買い占め、値上がりを待って一気に売り抜ければ、莫大な富が手に入る。ババを引くのは庶民だが、これで日本はアメリカのように、貧富の格差が圧倒的になり、さらに金持ちには有利、庶民はどん底の国になるのだ。日本の新自由主義化は、ますます進むことになろう。このシナリオは、日銀の無策が続き、消費増税がなされれば、現実のものとなるし、そうなる可能性はかなり高いだろう。
 さて、庶民の味方だった筈の森永さんは、転向したのだろうか。本書を読めば、それは明らかになります。金持ちがいかに楽々と富を増やせるか、本書で実感してみてください。貧乏人の自分は、ほとんど泣きそうになりました。
 蛇足だけれど、金融商品などでも、金持ちのための、金持ちにとっては非常に有利な種類のものがいろいろとあるのだということは、本書で初めて知った。そりゃあるでしょうね。金持ちは、何もしなくても金が増えていくのだということが、本書でよくわかった。いやはや。