商店街の崩壊を論じた名著

商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)

商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)

これは見事な論考だ。著者はまだ三十代で、初めての単著ということであるが、的確な基礎理論を背景に、「商店街」という対象に鋭く切り込んでいるのに感銘を受けた。商店街というものが戦後の産物だというのに、まず目を見開かれる。そして商店街は、保守の基盤のひとつとして、恥をを知らぬ政治的な圧力団体となり、行政から手厚い保護(いわゆる「大店法」)を受けるようになって、いわゆる「既得権益」という存在に成り下がってしまう。
 しかし、商店街の規制の及ばない、国道バイパス沿いなどにショッピングモールが出来るようになり、また、商店街の内部がコンビニ化することなどによって、商店街の没落は進行した。自業自得というものである。しかし一方で、コミュニティの担い手としての商店街は、滅びてしまっても困るわけだ。東日本大震災は、そのことを浮き彫りにした。これまでの存在形態を脱却した、新しい商店街の姿が求められるということである。
 田舎に住んでいる自分の感想を付け加えると、商店街が自動車で利用しにくいというのは、確かにデメリットである。無料の駐車場があれば、事態が変わるところもあるのではないか。そして、本書でも述べられているとおり、若者が店を構えようと思えるような条件は是非必要であろう。行政の補助というのは、そうした方向にシフトしていかざるを得ないと思う。
 議論の背景となる一般論の記述でも、ものを考えるヒントになるものがたくさんある。とりわけ第四章「商店街の崩壊期(1974〜)」での議論は、財政投融資が地方を崩壊させたことなど、同時代史としてとても面白かった。また、これは本筋の議論としても重要だが、商店街の担い手が「核家族」であり、そのことが商店街の崩壊の原因のひとつとなっていることも、重要な指摘である。とにかく、細部まで読ませる新書だ。これからも活躍して欲しい学者である。