難病とユーモアと日本(大野更紗を読んで)

([お]9-1)困ってるひと (ポプラ文庫)

([お]9-1)困ってるひと (ポプラ文庫)

世評に高い本なので読んでみたら、評判どおり、凄い本だった。読み始めたら、巻を置くことができなかった。著者は、ビルマの難民を支援する仕事に奔走する二十代女子であったが、原因不明の難病に罹患してしまう。自己免疫疾患の系統の病気だったのだが、動くことすら困難な中で、検査(麻酔なしで筋肉を切り取るとか、ホラーよりも恐ろしい)やら投薬(失敗して危篤状態に陥る)やら何やら、降り掛かってくることが凄まじい。マジで自殺まで考える(こんな風になったら自然な考えだと思う)のだが、それにしても筆致のユーモアには驚かされる。もちろん本書を書いているときも、病気は治ってなどいないのであり、このユーモアには高貴さすら覚えずにはいられない。
 そして、本書は、著者の言うように「闘病記」だとは云えない。敢て云うなら、自分自身を題材にした、ルポルタージュのようなものかも知れない。日本で難病に罹るというのは、闘病で大変なだけではない。こんな重病人が、充分に入院していられない制度になっているのだ(例の「診療報酬」の制度である)。話としては知っていたが、著者の「オアシス」(入院している病院のことを、そのあまりの素晴らしさに著者が名付けた呼称)ですら、瀕死の重病人を退院させなければならないとは。さらに、病人が自治体の支援を受けるにも、大量の書類が必要となる。死にそうなのに、どうせよというのか。紙切れ一枚が生死を分ける。日本って、そういう国なんだ。
 著者に降り掛かってくるのはほとんどが災難なのだが、ポジティヴになれる、いい話もある。よかったですね。そして、この(個人と社会の)ひどい状況を何とかしてやろうとまで前向きになる著者。本書は全篇ユーモアに包まれているが、思わずこちらにこみ上げてくる瞬間もあった。稀有な本です。