アメリカの黒人問題で思ったこと

アメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)の歴史は、奴隷状態から差別・解放へのそれであるが、本書は、かかる問題についての基本的な事実を伝えるために書かれている。もとより新書版であるから、話題は絞らざるを得ないが、最近の話題までを含み、かなりいい本なのではないかという印象を持った。それにしても、この問題はむずかしい。日本人が書くことで、当事者による偏向からは免れるかも知れないが、一方で、こういう問題には公平ということはあり得るのか、仮に可能だとして、それでいいのかという疑問もある。しかしその辺りは、著者は深く考えられているようにも思えた。
 それから、実際の歴史についてだが、例えば黒人の抵抗運動に関して、暴力を排除しないのか、それとも飽くまで非暴力でいくのがいいのか、という問題がある。確かに弱者による暴力は、強者によるさらに一層の暴力を誘発しかねないし、実際にそのようなことに頻繁になっているのだが、一方で、「こんなことに耐えるくらいなら、抵抗して死んだほうがまし」ということも、やはりあるわけだ。憎悪に対して憎悪で応えるというのは、愚かかも知れないが、極当り前の発想だからである。これは本当にむずかしい。
 今ではアメリカは黒人大統領を擁するようになったが、それでも黒人に対する差別がなくなっているわけではないことは、本書の指摘するところである。また、差別の廃棄に向けた「アファーマティブ・アクション」などが、逆差別だとの主張もある。このような問題が、論理で解決できるのかは、自分にはまったくわからない。また、かかる問題は、アメリカ一国の黒人問題だけではなく、世界的な弱者の問題に直結していくだろう。もちろん、日本でも類似の問題は様々にあるわけだ。自分などにはどうも、むずかしすぎていけない。皆も、考えてみて欲しいと思う。


※追記 アメリカの黒人は、色々と素晴らしい文化を創り出してきた。自分は音楽が好きなのだが、ジャズというのは自分はまったく詳しくないけれど、尊敬して已まないものである。また、自分は同調できないものの、ヒップ・ホップは世界の音楽地図を塗り替えてしまった。ここいらは、もう少し知りたいところである。