民主主義は行政府のやることを止められない

最近これほど読んでいて感銘・感動を覚えた本はない。國分さんは若い哲学者だが、東浩紀さん以来の才能ではないか。ってどうでもいいことから書いたが、感銘と興奮のゆえである。
 本書の出発点は、國分氏の携わった市民運動である。東京都が雑木林を伐採し、そこに道路を造るという計画に、國分氏を含む市民が反対した。これはテレビなどでもよく採り上げられ、自分も國分氏が出演した報道ステーションの番組を見た覚えがある。國分氏と中沢新一さんの対談集も読んでいた。結局市民運動では道路建設の認可を阻止できず、いつ工事が着工されるかということになり、一応市民運動の敗北となった形である。
 本書はそれらの経緯を記した部分を読むだけでも充分おもしろいし、読む意味もあるが、そこから國分氏が考え抜いてみせた、政治論・民主主義論も劣らずおもしろい。議論の出発点は簡単なことである。現在、民主主義は議会(立法府)により、法律を通じて推進されているように見えるが、実際に政治をやっているのは、官僚などの行政府である。我々は議会に対しては、選挙という形により、「主権」を行使することができるのだが、市民は「行政」には、それをコントロールする手段はほとんど持たない。一旦行政が「道路を造る」と決めたら、それを覆すことは、現状ではほとんど不可能なのだ。それは何かおかしいのではないか。著者の出発点はここである。
 その後の哲学的考察は、具体例があるのだから、むずかしいが自分でも何とかついていける。著者は議会制民主主義を否定しない。市民が行政にアプローチできるような「制度」を、どんどん造っていかなければならないというのだ。自分には國分氏の考察を簡単にまとめてみせる能力はないので、是非本書を手にとってみられたい。もしかしたらこの本は、現状を大きく拓いていくきっかけになるかも知れない。