ピロストラトスってひと知っていますか?

英雄が語るトロイア戦争 (平凡社ライブラリー)

英雄が語るトロイア戦争 (平凡社ライブラリー)

ピロストラトスは、二世紀から三世紀にかけてのギリシアの人。著述家、弁論家として知られている。本書は、ホメロスにはほんの少しだけ登場するプロテシラオスという英雄の霊(? 蘇った人?)が「ぶどう園主」に語ったトロイア戦争の話を、その「ぶどう園主」が、港で風待ちをしている「フェニキア人」に対して語る、といった対話篇である。プロテシラオスはどうやらホメロスの語りっぷりが気に入らないらしく、あちこちで「異説」を称え、とりわけオデュッセウスについて、狡知ばかりで英雄でも何でもないとくそみそに貶している。だから、『オデュッセイア』などは一刀両断に切り捨てられてしまっているくらいだ。
 全体的に見て、文学としてなかなか深いところもあり、意外に楽しめた。それにしても渋い本が訳されたもので、また訳文も心地よく読んでいける、よいものだと思う。平凡社ライブラリーらしい好企画といってよかろう。