木村敏の「もの」と「こと」

自分ということ (ちくま学芸文庫)

自分ということ (ちくま学芸文庫)

またここでも「もの」と「こと」だ。例えば「バラの花は美しい」というのなら、「バラの花」は「もの」で、「美しい」は「こと」である。木村のいう(人と人との)「あいだ」は「こと」なのだという。この「あいだ」が、精神病理学において、決定的に重要であるらしい。
 そしてどうやら、現代では「もの」よりも「こと」について、深く考えねばならないようだ。西洋では概念をまるで「もの」のように扱い、言語による壮大な体系を作り出してきたが、その尖兵たる物理学における「こと」性の進展も、偶然ではあるまい。