いつもながら絲山秋子の小説はいとおしい

逃亡くそたわけ (講談社文庫)

逃亡くそたわけ (講談社文庫)

絲山さんの小説は最高だ。読んでいて、「馬鹿」なんだが「いとおしい」という感想が、いつも浮かんでくる。本書の主人公たち、精神病院を「脱獄」してきた二人も、ついに恋人同士にはならないのに、いとおしい。福岡から鹿児島の最南端まで、ボロのルーチェ(マツダの車である)で、何から逃げるにかも判然としないまま、逃亡する二人。そういう中に、人生の「いとおしさ」がはっきりと顔を出すのだ。
 個人的な話だが、自分も九州が好きで、学生時代に京都から、「18切符」を使ってひとりで行ったり、その後の家族旅行で何度も訪れたことがある。本書に出てくる場所も、列車やレンタカーで訪れたところがだいぶあって、光景が目に浮かんでくるようだった。そうそう、福岡の運転のべらぼうな乱暴さは本当のことで、思わず「その通り」と膝を打ちたくなったくらい。
 ロード・ムービーならぬ「ロード・ノヴェル」という言葉があるのかどうか知らないが、とにかく、素晴らしい小説です。絲山さんの小説は読み尽くすのがもったいない。思い出したように、時々読んでいます。