等間隔の平行線の中に、針を投げ入れて線と重なる確率について
『国家の品格』が大ベストセラーになった、藤原正彦さんのエッセー集『祖国とは国語』をBOOK OFFで買ってきました。藤原さんはもちろん数学者なのですが、エッセーの面白さもまた無類だということは、周知だと思います。その中で珍しくも(?)、こんな数学の話があります。数学の美しさについてなのですが、
「…数学の美しさを理解するのは容易である。例えば大きな紙の上に、同じ間隔で平行線を何本も引く。一方、間隔の半分の長さの針を用意して、紙の上からポトンと落とす。落ちた針は平行線のどれかに触れるか、どれにも触れないで平行線の間に横たわるか、のどちらかである。」
「どれかの平行線に触れる確率は、数学によると、[注:円周率をπとすると]ちょうどπ分の一となる。すなわち三・一四回針を落とすと一回だけ、針は平行線に触れることになる。三百十四万回落とせば約百万回平行線に触れるということである。」
そして藤原さんは、こういいます。「これは美しい定理である。円とは何の関係もない所に、円周率πが現れるのが意外であり、また確率がπ分の一と驚嘆すべきほど簡潔に表せるのが美しい。そのうえ、この事実が永遠に揺るぎない、というのも美に花を添えている。この美しさは、野蛮な女房や息子たちにも理解されたから、万人に理解されると思う。数学はこのような珠玉の詰まった宝石箱なのである。」
まさしく、数学の美しさを簡潔にあらわして間然とすることがない文章です。では、この結果を導出するのは、どうしたらよいでしょうか。折角ですので、ちょっとやってみました。自信はないので、間違っているかもしれませんが。
まず、平行線が3本の場合を考え、上の線と下の線の間に針が落ちるとし、交わるか否かは真ん中の線のみに係わるとしましょう。線の間隔は1、針の長さは1/2として十分です。特異な場合として、針が必ず平行線に垂直に落ちるときを考えましょう。針の頭の落ち得る範囲は2-1/2=3/2、真ん中の線にかかるように落ちるとき、これも針の頭の落ち得る範囲は1/2なので、確率は(1/2)/(3/2)=1/3です。平行線が4本の場合、中の2本にかかるとして、確立は1/(5/2)=2/5になりますので、平行線がn+2本のとき、確率は(n/2)/((2n+1)/2)となります。nを無限大に飛ばせば、結局、確率は1/2になります。
ここまでは小手調べです。今度は針が、平行線に垂直とは限らない、一般の場合を考えましょう。針が鉛直線と角θをなすとします。同じく平行線が3本の場合からやるとして、確率は(cosθ/2)/(2-cosθ/4)となります。平行線がn+2本の場合は、これも類推して確率は(ncosθ/2)/(n+1-cosθ/4)となるので、nを無限大に飛ばせば、確率はcosθ/2が得られます。これは、θ=0とすれば、針が鉛直な場合も含みます。
さて、あとはθの値が0からπ/2まで変りますから、(cosθδ(θ)/2)/(π/2)を0からπ/2まで積分すると、結果は1/πが得られます。以上。
最後、デルタ関数を使うところが自信がないところです。どうでしょうか。
ちなみに、これは「ビュフォン(Buffon)の針」という、よく知られた問題だそうです。
- 作者: 藤原正彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/12/22
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『思想地図』をぱらぱら繰ってみて
NHKブックス別巻 思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ
- 作者: 東浩紀,北田暁大
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2009/05/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書の内容については語らなかったが、みな様々に言いながらも、結局「(社会乃至プラットフォームの)設計可能性」というのは疑われていないように感じた。自分にはそこがむつかしいところだと考えられるのだが。でもまあ、むつかしいので止めておいては、確かにそこで話も止まってしまうといえばそうなのだが。自分は別の道を選びたいけれども。
スヴャトスラフ・リヒテル讃
Sviatoslav Richter pianist of the century
- アーティスト: Sviatoslav Richter
- 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
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Mozart: Beethoven: Grieg: Piano Cto/Sonata
- アーティスト: Sviatoslav Richter
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リヒテルはまた、長きに亙って現役のピアニストであり、東西の冷戦下で西側デビューが遅かったにも拘らず、最晩年まで見事な演奏を聴かせた。六十年代の大変なヴィルトゥオーソとしての彼だけでなく、晩年の簡素にして瑞々しい演奏を聴かせるピアニストへの変貌も、また面白いところである。リヒテルの特徴として、演奏の「硬化」がなく、スタイルに溺れてしまうところがないという、彼は天才であった。(あのグールドですら、ある程度の「硬化」は免れなかったと思う。)それはレパートリーの特徴でもあり、音楽史で主流のドイツ古典派、ロマン派や、ホームグラウンドであるロシア音楽はもちろんのこと、ショパンやフランス物なども定評ある演奏を聴かせるなど、まさしく「最強のコミュニケーター」とは上手く言ったものであると思う。
個人的には、彼のシューマンが好きだ。上のDG盤、EMI盤双方にピアノ協奏曲が入っているが、どちらも最高だ。この曲では第一楽章のカデンツァと第三楽章がとりわけ好きなのだが(この好みは一般的ではないかも知れない)、これをまったく美しく感動的に弾いてくれる。(ポリーニ盤やリパッティ盤と共に、愛聴している。)また、上のディスクには入っていないが、幻想曲op.17や幻想小曲集op.12などの演奏も、シューマンのロマンティシズムを堪能させてくれる。
ちなみにリヒテルはかなりの日本好きで、よく来日してリサイタルを開いていた。これは日本好きだからというわけではないだろうが、ピアノはYAMAHAを愛用していたのは有名である。(グールドの晩年もYAMAHAだったのは、奇妙な暗合。)自分がクラシック音楽を聴くようになってからも何度か来日していたが、亡くなるまでに生で聴かなかったのは、今では残念にも思う。まさしく彼は「世紀のピアニスト」だった。
サイエンス・ライターを軽んじるな
自己組織化とは何か 第2版―自分で自分を作り上げる驚異の現象とその応用 (ブルーバックス)
- 作者: 江崎秀,林健司,都甲潔
- 出版社/メーカー: 講談社
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内容とは関係のない話だが、久しぶりにブルーバックスを読んでみたけれども、サイエンス・ライターの竹内薫さんも述べているように、学者の書いた科学書は概してサービス精神に乏しい。はっきり云って、文章も下手である。もっとサイエンス・ライターに書かせるべきだと思うが、日本の科学者は、サイエンス・ライターを軽んじる、いや、馬鹿にするという悪習があるため、優秀なサイエンス・ライターが育たない。日本の「理系離れ」は、そういうところにも大きな原因がある。編集者はそのあたりのことを、どう思っているのだろうか。竹内さんの怒りの発言をリンクしておく。
http://kaoru.txt-nifty.com/diary/2009/05/post-cdb2.html
http://kaoru.txt-nifty.com/diary/2009/04/post-a2a9.html
思いつきでやる物理
万有引力の法則から、太陽のまわりを廻る惑星の軌道が楕円になること(ケプラーの第一法則)を示せるはずだと思い、計算してみる。極座標系で楕円を表わす式の導出に手間どる。(ちなみにそれは、半直弦をp、離心率をe、動径をrとすると、p/r=1+ecosθとなる。)運動方程式を、動径方向と方位角方向に分けなくてはならないことに思いいたらず、悩む。まあ、力学の教科書には必ず書いてあることだが。
- 作者: 戸田盛和
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力学・場の理論―ランダウ=リフシッツ物理学小教程 (ちくま学芸文庫)
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相撲の巴戦の確率
相撲の巴戦の確率を計算してみました。
巴戦というのは同星が三人の場合におこなわれるもので、最初に戦う二人をAとB、残りの一人をCとすると、AとBの勝者がCと戦い、連続して勝てばその人が勝者、そうでなければ最初の敗者とCが戦い、というようにして、とにかく二番続けて勝つ者が出るまでおこなうものです。以下、どの力士の実力も拮抗している(どの対戦でもおのおのが勝つ確率が同じ(つまり1/2)である)と仮定します。
AとBの確率が同じなのは明らかですが、Cがどうなるかは自明ではありません。樹形図を書けばわかりますが、確率はそれぞれ
A=B=1/4+(1/16+1/32)+(1/128+1/256)+ … =5/14
C=1/4+1/32+1/256+ … =4/14
となります。これより、Cは少し(1/14だけ)不利になることがわかります。
実際の計算の仕方ですが、まずCを求めます。初項が1/4、項比が1/8の等比数列の和なので、
(1/4)×{1-(1/8)^n}/(1-1/8)
でnを無限大に飛ばすと、nの累乗の部分は0になって、2/7(=4/14)に収束します。残りのAとBは同様に計算してもよいですし、全確率からCを引いて(1-2/7=5/7)、それを2で割っても出ます。
また、これも樹形図からわかりますが、n回目(n≧2)の対戦で勝負がついたとすると、Cが勝って終るのは、nが3の倍数であるときだけです。このときAとBが勝って終ることはありません。そして、nが3の倍数でないときにAまたはBが勝って終る可能性があり、このときCが勝って終ることはありません。