モースの『贈与論』の待望の文庫版新訳

贈与論 (ちくま学芸文庫)

贈与論 (ちくま学芸文庫)

二十世紀の古典中の古典の、待望の文庫版新訳。この本の知見は後にあまりにも大きな影響を与えたので、内容のおおよそは既に弁えてはいたが、やはり元の本を読んでみるというのは刺激的な体験だった。有名なポトラッチやクラ交易から抽出した、贈る義務、受け取る義務、お返しする義務という三つの義務の発見は、人類の蓄積してきた知の中でも、第一級のそれであろう。これは、所有物が一種の「霊」を帯びるという事実に支えられているのであり、資本主義がそれを脱色してきたにもかかわらず、人間が所有し、コミュニケーションする限り、有効な考え方なのである。大きいことをいえば、このモースの知見と、『資本論』の価値形態論とを接続することも可能だろう。(無知な自分が知らないだけで、そんなことはとっくの昔になされているだろうが。)日本では中沢新一が、この『贈与論』を受けて、これを様々に展開しており(例えば「カイエ・ソバージュ」のシリーズ)、彼の仕事にはさらなる期待がかかるといえよう。