綿矢りさは正統派の小説家です

かわいそうだね? (文春文庫)作者: 綿矢りさ出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2013/12/04メディア: 文庫この商品を含むブログ (10件) を見る表題作が大傑作で、興奮した。普通の恋愛小説というか、三角関係が崩壊していく普通の小説で、書き方もオーソドック…

日本経済は若者を見殺しにするのか?

若者を見殺しにする日本経済 (ちくま新書)作者: 原田泰出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2013/11/05メディア: 単行本この商品を含むブログ (8件) を見る扇情的なタイトルだが、著者の怒りが籠められていると云っていい。ロジックの書である。自分の愚かな意…

ポリーニの新譜二枚

マウリツィオ・ポリーニの新譜が二枚出た。ようやく入手。一枚は最新録音のベートーヴェンで、もう一枚は七〇年代のライブが、今頃発売された。 まず、最新録音のベートーヴェンのソナタのCDから聴く。曲はすべて、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中では、…

渡辺京二による、現在最良の現状分析のひとつ

新書700近代の呪い (平凡社新書)作者: 渡辺京二出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2013/10/15メディア: 新書この商品を含むブログ (16件) を見る名著だと思う。著者は恐るべき実力者だ。年齢というものをまったく感じさせない、大変な内容の濃さである。本書の…

「脱亜論」と「アジア主義」なる対立軸の無意味さ

近代日本とアジア: 明治・思想の実像 (ちくま学芸文庫)作者: 坂野潤治出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2013/10/09メディア: 文庫この商品を含むブログ (7件) を見る途轍もない知的膂力によってなされた、驚くべき論考。日本の近現代史に関心のある者が、ま…

クルーグマン教授によるアベノミクス本

そして日本経済が世界の希望になる (PHP新書)作者: ポール・クルーグマン,山形浩生,大野和基出版社/メーカー: PHP研究所発売日: 2013/09/14メディア: 新書この商品を含むブログ (23件) を見る御存知ノーベル経済学賞受賞者クルーグマン教授による、アベノミ…

民主主義は行政府のやることを止められない

来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題 (幻冬舎新書)作者: 國分功一郎出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2013/09/28メディア: 新書この商品を含むブログ (40件) を見る最近これほど読んでいて感銘・感動を覚えた本はない。國分さんは若い…

多田富雄氏の凄惨な人物回想録

残夢整理―昭和の青春 (新潮文庫)作者: 多田富雄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/01/28メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) を見る恐らく著者最後の本なのではないか。生涯に出会った人たちの回想録であるが、対象はすべて死者である。たぶん、己…

商店街に客がこないのは必然ではない

商店街再生の罠:売りたいモノから、顧客がしたいコトへ (ちくま新書)作者: 久繁哲之介出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2013/08/07メディア: 新書この商品を含むブログ (10件) を見るこれは面白かった。自分は商店街の再生に何の関係もないし、特に情熱もな…

佐藤文隆先生の本を読みて興奮したること

科学と人間 科学が社会にできること作者: 佐藤文隆出版社/メーカー: 青土社発売日: 2013/07/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見るどれくらいの人が知っているか見当がつかないが、佐藤先生は日本を代表する物理学者のひとりであり、個人的な…

震災と民衆的想像力

鯰絵――民俗的想像力の世界 (岩波文庫)作者: C.アウエハント,小松和彦,中沢新一,飯島吉晴,古家信平出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/06/15メディア: 文庫この商品を含むブログ (9件) を見るふぅ、大著をやっと読み終えた。「鯰絵」とは、安政の江戸大地…

参議院選直前の、森永卓郎による緊急通告

庶民は知らないアベノリスクの真実 (角川SSC新書)作者: 森永卓郎出版社/メーカー: 角川マガジンズ発売日: 2013/07/10メディア: 新書この商品を含むブログ (3件) を見るどう書こうか迷う。まず、森永さんは長年のリフレ派である。本書でも、このことはまった…

「貧困大国日本」にならないために、アメリカを見る(ことは可能か?)

(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)作者: 堤未果出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/06/28メディア: 新書この商品を含むブログ (47件) を見る三部作完結。前二著に劣らぬ、大変なリポートだ。「1%」に支配されるアメリカの姿には、恐怖を覚えるとしか言い…

國分功一郎のドゥルーズ論は、本当に刺激的だった!

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)作者: 國分功一郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/06/19メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (28件) を見る何とも刺激的で興奮させられる書物! などと云っても、何も言ったことにはならないが…

ヴァレリー最後の詩集

ヴァレリー詩集 コロナ/コロニラ作者: ポール・ヴァレリー,松田浩則,中井久夫出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2010/06/23メディア: 単行本 クリック: 9回この商品を含むブログ (7件) を見る松田浩則・中井久夫訳。ヴァレリー最後の詩集である。が、その…

日本の子供たちと貧困

子どもの貧困―日本の不公平を考える (岩波新書)作者: 阿部彩出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2008/11/20メディア: 新書購入: 16人 クリック: 218回この商品を含むブログ (110件) を見る本書について、どう書こうか迷う。自分は本書を極めて感情的に読んで…

極めて面白いローマ帝国衰亡新史

新・ローマ帝国衰亡史 (岩波新書)作者: 南川高志出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/05/22メディア: 新書この商品を含むブログ (14件) を見るこれは面白かった。ローマ帝国の衰亡の歴史が、ここまで刺激的だとは。在来の通説を一変させている。本書に拠…

鳥居龍蔵の手記

ある老学徒の手記 (岩波文庫 青112-1)作者: 鳥居龍蔵出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/01/17メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (6件) を見る著者は明治から昭和を生きた、極東地域における人類学・考古学で大きな業績を残した大学者で…

中井久夫氏の新刊

「昭和」を送る作者: 中井久夫出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2013/05/23メディア: 単行本この商品を含むブログ (14件) を見る新刊が出れば買わずにはおれないという文筆家は、自分にはそう多くはないが、中井久夫氏は間違いなくその一人である。本書は…

「科学的お伽話」としての自由

自由は進化する作者: ダニエル・C・デネット,山形浩生出版社/メーカー: NTT出版発売日: 2005/05/31メディア: 単行本購入: 14人 クリック: 99回この商品を含むブログ (257件) を見る最初に断っておくが、自分は本書を隅から隅まできちんと読んだわけではない…

アメリカの黒人問題で思ったこと

アメリカ黒人の歴史 - 奴隷貿易からオバマ大統領まで (中公新書)作者: 上杉忍出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2013/03/22メディア: 新書この商品を含むブログ (6件) を見るアメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)の歴史は、奴隷状態から差別・解放へ…

樹を植え続ける「学問バカ」の生涯

森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書)作者: 宮脇昭出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/04/18メディア: 新書この商品を含むブログ (2件) を見る著者は植物生態学者として、八十五歳の今になるまで、総計四〇〇〇万本にもなる樹を植え続けてき…

『なめらかな社会とその敵』を読んで、雑感

なめらかな社会とその敵作者: 鈴木健出版社/メーカー: 勁草書房発売日: 2013/01/28メディア: 単行本購入: 8人 クリック: 299回この商品を含むブログ (51件) を見るネットなどの評判からして、読んで否定的な感想を持つのではないかと予想していたが、さほど…

「役立たずな知識の有益性」と物理学

山形浩生氏が(勝手に)訳した、フレクスナーの「役立たずな知識の有益性」(参照)はなかなか面白い。物理学の成果の殆どが、有益性とは関係のないところで追求され、得られたと云えるだろう(熱力学などは例外かも知れないが)。現代のハイ・テクノロジー…

「暇と退屈の倫理学」とはね!

暇と退屈の倫理学作者: 國分功一郎出版社/メーカー: 朝日出版社発売日: 2011/10/18メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 13人 クリック: 146回この商品を含むブログ (128件) を見るこれは素晴らしい書物だ。著者はまだ若いが、今の若い人たちには驚くべき…

論理学で大儲け?

数学的推論が世界を変える 金融・ゲーム・コンピューター (NHK出版新書)作者: 小島寛之出版社/メーカー: NHK出版発売日: 2012/12/10メディア: 新書購入: 48人 クリック: 1,233回この商品を含むブログ (26件) を見るこれは面白かった。じつにユニークな本で、…

モームが通俗作家でもいいじゃないか

昔も今も (ちくま文庫)作者: サマセット・モーム,天野隆司出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2011/06/10メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 37回この商品を含むブログ (11件) を見る訳者解説によれば、批評家エドマンド・ウィルソンは本書を酷評したそうであ…

「アラブの春」の帰結

「アラブの春」の正体 欧米とメディアに踊らされた民主化革命 (角川oneテーマ21)作者: 重信メイ出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)発売日: 2012/10/10メディア: 新書購入: 6人 クリック: 66回この商品を含むブログ (30件) を見る本書の…

「国境を越える」とはどういうことか

〔増補〕国境の越え方 (平凡社ライブラリー)作者: 西川長夫出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2001/02/07メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 29回この商品を含むブログ (51件) を見る上野千鶴子の本経由で読んだ。本書の解説も上野である。強靭極まりない書物…

上野千鶴子の『ナショナリズムとジェンダー』を読んでの、幼稚な感想

ナショナリズムとジェンダー 新版 (岩波現代文庫)作者: 上野千鶴子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2012/10/17メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (8件) を見る何という苦闘の書であろうか。本書で著者は、「従軍慰安婦」問題に渾身の力を…